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ペイパル創業物語から得た3つの教訓について

「創始者たち──イーロン・マスク、ピーター・ティールと世界一のリスクテイカーたちの薄氷の伝説(以下、創始者たち)」は、スタートアップのレジェンドが多数在籍したペイパルの物語に焦点を当てた書籍です。VCをやっている友人にオススメおすすめされて読んでみたのですが、今年読んだ書籍の中でも間違いなくトップ3に入るくらいに面白かったです。(記事執筆時点2023年11月19日)
 
 
この記事では個人的な視点から「創始者たち」を読んで面白く感じた点と、得た学びを書いていきます。
 
※この記事では「創始者たち」のネタバレ的な内容を含みますので、物語として楽しみたい方は読了後にお読みください。

面白かった点

物語としてもとても面白い内容なのですが、激動の社歴をもつペイパルの物語にはたくさんの学びが詰まっており、読了してから自分が経営する中で同じような問題にぶつかったらどう行動するだろうか?といった思考を巡らせました。
 
まず個人的に面白いと感じたポイントをいくつか抜粋して列挙します。
 
  • ペイパルの創業物語は詳しくなかったので、純粋に興味深かった
  • ペイパルマフィアと呼ばれるレジェンド達の初期が知れる
    • 特に、ピーター・ティールとマックス・レヴチンの2人の魅力が凄い
  • ペイパルに至るピボットの遍歴と、会社全体でそのピボットを受け入れるまでの詳細
  • 強力なライバル(コンフィニティ vs X.com)との戦いの詳細と結末(合併)
  • 巨人(ペイパル vs イーベイ)との戦いの詳細と結末(買収)
 
実はペイパルマフィアと呼ばれているピーター・ティールやマックス・レヴチン、リード・ホフマンなどの人々が何となく何をやったかについては知っていました。しかし、その詳細を深く掘り下げることをしたことはありませんでした。なので、例えばピータ・ティールであれば、ファウンダーズファンドを立ち上げ、Facebookの初期投資家であったり、Ethereumの創設者への投資などをした人物として認知する程度でした。
 
なので、「創始者たち」を読むことで彼らの凄さを感じることができました。この本の良さは、具体的な記述が多く、コンテキストを踏まえてなぜこのような意思決定をしたのか、どのように交渉をしたのか、といったことがわかる点が非常にいいなと思いました。
 
また、ペイパルは2社が合併して一つの会社となる歴史を歩んでいますが、その中でそれぞれの会社の初期ビジョンから、熾烈な戦い、そして合併に至る。その後は、イーベイという巨人と非常に繊細なバランスで戦い続け、最終的に買収に至るという流れです。この過程が非常に難しい決断の連続であり、それについても詳細に描かれていることで、自分だったらどうするか?ということも考えやすく、自分自身に向けて多くの問いが生み出せた点も満足度が高かった点です。
 

学び

「創始者たち」は今の僕にとっては多くの学びや問いが得られる書籍でした。ざっと挙げるだけでも、組織作り、初期市場の切り開き方、市場リスクとの向き合い方、類似スタートアップとの戦い、巨人との戦いと交渉、効果的な取締役会、TAMの拡大戦略、グローバル展開、など。
 
今回はその中でも特に印象に残った教訓を3つ取り上げます。
  1. ポテンシャルを見極める
  1. テクニックではなく、正しいことに全力を尽くすということ
  1. 運の良さが最大の成功要因だが、運さえ味方にすれば勝てるレベルの努力が必要
 

1. ポテンシャルを見極める

本書の中で、ピーター・ティールの採用についての話が登場する。印象的なのは、クイズを用いて候補者を見極めるという慣習があったという話。具体的にどのようなクイズを出されていたかはぜひ本書を読んでもらいたいと思いますが、知識というよりは思考力を試すような類のクイズが利用されていることが紹介されていました。
 
一方で、金融業界のベテラン、経験豊富な経営者に厳しい評価を下す様子も描かれており、ペイパルが業界経験などではなく、もっと根底の能力に焦点を当てて採用候補者を見極めていたことがわかります。
 
ピーター・ティール以外でも本書の中で採用基準について下記のようにポテンシャルを重視する記載がありました。
取締役のティム・ハードはペイパルの採用条件をより簡潔に表した。「圧倒的知性の持ち主か?それが第一条件だった。必要な仕事を本当にうまくやれるか?そのために全身全霊を尽くせるか?それ以外は不問にした」
ジミー・ソニ. 創始者たち──イーロン・マスク、ピーター・ティールと世界一のリスクテイカーたちの薄氷の伝説 (p.604). Kindle 版.
 
自分自身も採用時には経験や知識よりもカルチャーを重視するように努めているが、一風変わった考え方やスタンスであり、自分たちの採用活動にも考え方をうまく取り入れられないかと考えてみたいと思いました。(クイズで採用をするということではなく、ポテンシャルをどう評価するかという観点)
 

2. テクニックではなく、正しいことに全力を尽くすということ

この書籍で描かれるペイパルの歴史は大抵が競合との戦いの歴史です。初期はスタートアップ同士、後半は忍び込んだプラットフォーム(イーベイ)との戦いです。メンバーが凄かったという側面がありつつも、強力な競合の存在が組織を進化させているという印象を強く持ちました。
 
本書の中で、当事者たちが戦い続ける日々に疲弊しきってしまう様子が描かれています。常に進化を続けなければ死んでしまう環境であり、必死に立ち向かうことでイノベーションがいくつも生まれていることが示されていました。
 
この戦いについても詳しく描かれているのですが、共通して僕自身が感じたことは、「正しいことに全力を尽くす」という姿勢です。小手先ではなく、真正面から問題解決に全力を投じていました。
 
そのために賛否は当然あるようなリスク、例えば海外の賭博サイトの決済を請け負うなど、を許容する姿勢も印象的でした。ただし、そのリスクについてもどうやって切り抜けるかを常に考え続けており、(あくまで書籍内では)思考停止の様子は一切ありませんでした。
 

3. 運の良さは重大な成功要因だが、運さえ味方にすれば勝てるレベルの努力が必要

本書の終盤にペイパルの成功は様々な幸運に支えられたと、言及されます。運に助けられた瞬間として、強力な創業メンバーがたまたま集まったこと、ペイパルがサービスインしたタイミング、ITバブル崩壊直前の1億ドルの資金調達、イーベイがペイパルを締め出さなかったことなどが挙げられています。そのため、ペイパル出身者は「成功すべくして成功した」という神話をきっぱり否定するとのことが述べられています。
ペイパルの成功物語の核心には幸運があったからこそ、ペイパル出身者は「成功すべくして成功した」という神話をきっぱりと否定する。「シリコンバレーで成功すると、究極の異端児だったとしても、いつしかシリコンバレーに取り込まれる」とマロイは言う。「成功者は伝説になる。そして伝説が独り歩きし始める。人は自らの物語をつくりあげるのがうまい。そしてその物語からは人間的な要素が抜け落ちていく。だが成功するかしないかは、実際には紙一重の差だ」
ジミー・ソニ. 創始者たち──イーロン・マスク、ピーター・ティールと世界一のリスクテイカーたちの薄氷の伝説 (p.612). Kindle 版.
 
しかし本書を通じて強烈に僕が感じたことは、「運さえ味方すれば勝てるレベルの努力があった」ということです。何度も死がよぎるシーンがあり、その度になんとかして問題を解決するためのベストを尽くす様子が描かれます。
 
スタートアップの成功物語には「運の要素が大きい」と言われますが、ペイパルの物語を読んだ上で改めて、運の良さは重大な成功要因だが、運さえ味方すれば勝てるレベルの努力がなければ、普通に死んでいくのだろうと思いました。